天神崎について

 天神崎は、紀伊半島西側にある田辺湾の北側に突き出た岬で、観光地で有名な白浜の対岸に位置しています。田辺湾は、黒潮の影響のもと、多様な海洋生物が生息している世界的にも貴重なところです。湾内では、小島や暗礁などによって潮の流れが複雑となり、また会津川や南部のリアス式海岸の湾に注ぎ込む小河川からの陸水の影響によって、多様な生息環境が形成されています。このような環境のもとに、外海に面したところでは、亜熱帯性のサンゴ類、魚類、貝類、甲殻類、ウニ類などの南方系の生物が見られ、内湾部では温帯系の種類へと置き換わっていきます。天神崎でも、先端から根元に向かって、このような多様な生物の置き換わりを見ることができます。

 天神崎の海岸は、少し潮が引くと平坦な岩礁が広がり、多様な海の生物を安全に観察できる場所となっています。その背後の丘陵地は海岸林(照葉樹林)と湿地とからなり、暖地性植物・昆虫をはじめ、豊かな生物相が見られます。

  天神崎は、市街地に近くしかも景勝の地でもあることから、市民の憩いの場(遠足・散策・魚釣等)として古くから親しまれてきました。最近では、ウユニ塩湖風の写真が撮影できる地点として、多くの訪問客が訪れています。

 この天神崎に1974(昭和49)年高級別荘地開発の計画が起こり、それを知った市民有志は、森と海が一体となった自然は一度破壊されると修復は困難となることから、開発業者より土地を買い戻す運動を開始しました。買い戻すための資金は多額になるため、とても有志の力だけでは集めることができず、やむなく全国の皆様にご協力をお願いし、土地の買取募金活動を実施しました。これが日本におけるナショナル・トラスト運動の先駆的なものになりました。現在も皆様より「心の地主寄付金」としてご寄付をいただき土地の買取運動を行っています。

 私たちはこの自然環境を未来の子供たちに伝え残すことを願って末永く活動を継続していきたいと思います。